【仕組債損失と役員の善管注意義務違反の可能性について】
- toshindaimondai
- 7月29日
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はじめに
東京神学大学は2017年に、ドイツ銀行ロンドン支店が発行した為替連動型の仕組債を5億1千万円分購入し、その際に保有していた債券を額面より安く売却したことで**約9,000万円の「処分差額」(実質的損失)**を出しました。
本学はこの損失を、減価償却引当特定資産等から繰入れを行なうことによって、補填しました。
このような投資判断と会計処理について、信徒・教会関係者の間で疑問の声が高まっています。
本記事では、この仕組債購入と損失の経緯について、**役員(理事)に課される法的責任「善良な管理者の注意義務(善管注意義務)」**の観点から問題点を検証します。
1.善管注意義務とは
私立学校法では、学校法人の理事に対して「善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)」が定められています(同法第44条の3など)。
つまり、理事は学校法人にとって最善の利益を追求する注意深い判断と行動が求められるということです。
この義務に反して不適切な投資・支出を行い損害が発生した場合、損害賠償責任を問われる可能性があります。
学校法人役員等の善管注意義務については以下のリンクに詳しく説明があります。
2.問題となる仕組債のリスクと運用判断
東京神学大学が購入したのは、以下のようなリスク性のある債券です。
為替連動型:円ドル相場によって償還額や利子が変動する
デリバティブ要素を内包した仕組債:通常の国債等と異なり、市場変動の影響を大きく受ける
償還まで30年(満期2047年)という長期運用
償還が30年後というのは、極めて稀でリスクのある商品(通常3~5年が一般的)。30年間ハイリスクを抱え続けるということ。安定資産を確保すべき公益法人としてふさわしい債券とは決して言えない。30年後となれば、仕組債購入を決定した張本人たちは、ほぼ存在しておらず、責任の所在がさらに曖昧になる。
本学は自らの資産運用規程において、「公共債(国債・地方債)中心」「格付A以上の信用力ある債券」に限定してきたはずです。
しかし、この仕組債はその方針と異なり、高リスクかつ複雑な金融商品であり、公益法人にふさわしくない運用と指摘されています。
学校法人の仕組債については以下のリンクに詳しく説明があります。
3.損失補填と会計処理の問題点
2017年度、仕組債購入に伴い9,000万円の売却損(処分差額)が発生。これを補填するため、以下のような資金の繰り入れが行われました。
流動資産から4,000万円
減価償却引当特定資産から5,000万円
このようにして減価償却目的の資金を仕組債損失の穴埋めに使ったことは、建物設備等の将来的な更新費用を損なう行為であり、財務上も深刻な影響を及ぼしています。
また、大学側の説明は「損失ではなく処分差額」としていますが、実質的には減価償却特定資産という裏付けのある資金を食いつぶす結果となっており、信徒・教会からの信託に反する資産管理と見られる可能性があります。
4.善管注意義務違反となる可能性
この投資と会計処理は、以下の理由から善管注意義務違反と評価される可能性があります。
高リスク商品への多額投資(6億円相当)は法人資産の保全義務に反する
慎重な審議・リスク評価を行った証拠が乏しい(議事録等の未開示)
債券の性質を十分に理事会や信徒に説明した形跡がない
会計処理により、将来の設備更新財源を毀損
損失補填のための資金移動が不透明
こうした判断ミスや説明不足は、法人役員に課される「注意義務」に反するものであり、場合によっては損害賠償請求の対象になりうる重大な問題です。
5.他大学での類似事例
以下のような事例でも、善管注意義務違反やガバナンス欠如が問題となりました。
某私立大学(関西):役員が不適切な不動産取引により損失を出し、役員解任
大学共同利用機関法人(東京):高リスク資産に投資し、文科省より厳重注意・制度見直し指導
東京神学大学も公益性の高いキリスト教教育機関である以上、極めて慎重な財務判断が当然に求められます。
6.信仰と責任の問題として
今、私たちが問いたいのは「教会の祈りと献げ物に支えられているはずの神学校が、本当にその信頼に応えていたのか」という、信仰と責任の問題です。
損失を「処分差額」と呼び変えても、資産運用規程を改訂しても、根本の問題は消えません。そして、今なお信徒に献金を求める姿勢に、私たちは深い疑問と痛みを覚えています。
おわりに
2017年の仕組債購入とその後の資金繰りの問題は、決して一部の投資失敗にとどまりません。
それは、学校法人の透明性・説明責任・信託責任、そして理事たちの善管注意義務に関わる重要な問題です。
この事実を黙って見過ごすことは、東京神学大学の未来と信頼を損なうことに他なりません。誠実な反省と説明、そして再発防止策が今こそ求められています。
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