【総括】東京神学大学のガバナンスは機能しているか―ハラスメント・仕組債・財務悪化が示す構造的問題―
- toshindaimondai
- 1 日前
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はじめに:「ガバナンス」とは何か
「ガバナンス」という言葉は、組織の統治・管理体制を指します。平易に言えば、「組織が適切に運営されているかどうかを確認し、問題があれば是正する仕組みが機能しているか」という問いです。
企業でも学校法人でも、ガバナンスの本質は同じです。権力が一部に集中していないか。意思決定のプロセスは透明か。問題が発覚したとき、誠実に対処する仕組みがあるか。外部からの問いかけに正面から応答するか。
現代においては、いかなる企業、法人においてもガバナンスの強化が常識となっています。それは当然東京神学大学とて、例外ではあり得ません。
私どもは2021年以来、東京神学大学に対して11回にわたり質問状を送付してきました。その過程で明らかになったことを、この記事で総括します。
結論を先に申し上げます。東京神学大学のガバナンスは、複数の深刻な問題において機能不全に陥っています。
◆第一の問題:ハラスメントへの対応
【裁判で確定した事実】
2019年3月、キリスト新聞ウェブサイトに「東京神学大学の現役学生 ハラスメント調査委に訴え」という記事が掲載されました。同年7月、同窓生28名が連名で大学に要望書を提出しています。
その後、複数の訴訟が提起されました。2023年初頭、最高裁判所および東京高裁において、元学長・芳賀力氏の不法行為(プライバシー侵害・名誉毀損等)に関して原告の請求が一部認められ、損害賠償が命じられました。裁判所という客観的な第三者機関が、不法行為の事実を認定したのです。
【大学の対応:謝罪なき「維持」】
2023年5月の理事長回答書において、大学常務理事会は裁判の結果を受けながらも、芳賀前学長への名誉博士・名誉教授称号の授与を維持することを決定しました。
その理由として述べられたのは、「プライバシー侵害は牧師との信頼関係に基づく必要性があった」「名誉毀損はブログを削除した後に教授会が再選した」などという説明です。
しかしこれらは、裁判所が不法行為と認定した行為を大学側が独自に再評価・正当化するものにすぎません。被害を受けた当事者への謝罪・和解・ケアについて、大学からの言及は一切ありません。
「赦し」を語る信仰共同体として、傷ついた人への対応がないまま時が過ぎていくことは、その共同体の倫理的な性格そのものを問うものです。
【ガバナンスの問題点】
ハラスメント問題において機能すべき仕組みは何だったでしょうか。
第一に、被害の申告を真剣に受け止め、独立した調査を行う体制。
第二に、不法行為が確定した場合に当事者を適切に処分する仕組み。
第三に、被害者への謝罪・補償を行う手続き。
いずれも機能しませんでした。それどころか、被害を訴えた人が「共同体を乱す者」として位置づけられる構造が生まれました。
告発者が不当に扱われたという事実は、次の世代の学生・関係者に「問題を訴えると危険だ」という学習をもたらします。これは神学校という場において特に深刻な問題です。
◆第二の問題:仕組債による損失と意思決定の失敗
【何が起きたか】
東京神学大学は2017年に、保有していた6億円分の債券を5億1000万円で売却し、ドイツ銀行ロンドン支店が発行した為替連動型の仕組債に切り替えました。この買い替えにより、約9,000万円の「処分差額」(実質的損失)を出しました。
この損失を補填するため、大学は減価償却引当特定資産から5,000万円、流動資産から4,000万円を第3号基本金に繰り入れました。
これは本来、建物や施設の修繕などに備えて積み立てておくべき資金です。つまり、大学は将来のインフラ修繕費用を流用して、金融投資の損失を埋めたのです。
ちなみに9,000万円という金額は、現在の授業料収入(年間約3,386万円)の約2.7年分に相当します。
【理事会自身が認めた問題】
2023年5月の理事長回答書において、大学常務理事会は以下のように述べています。
「国債を売却し、SMBC日興証券を介してドイツ銀行債権を購入した問題は、専門家を加えた基金管理の体制なしに実行された点に疑問のあるところです。」回答全文
これは私どもが指摘したのではありません。大学理事会自身が認めた言葉です。
本学は自らの資産運用規程において「公共債(国債・地方債)中心」「格付A以上の信用力ある債券」に限定してきたはずです。
しかし、この仕組債はその方針と異なり、高リスクかつ複雑な金融商品であり、公益法人にふさわしくない運用と指摘されています。
【現在も続く含み損】――2025年度決算書から分かること
2025年度決算書(2026年3月31日現在)の注記事項15「有価証券の時価情報」には、以下の数字が記載されています。
区分 | 帳簿価額 | 現在の時価 | 差額(含み損) |
満期保有目的の債券 | 5億6,583万円 | 5億329万円 | △6,254万円 |
その他の有価証券 | 5億1,924万円 | 4億4,671万円 | △6,429万円 |
合 計 | 10億7,583万円 | 9億4,900万円 | △1億2,683万円 |
時価が帳簿価額を上回る有価証券はゼロ。保有するすべての債券が値下がりしている状態で、含み損は1億2,683万円に上ります。
この含み損は決算書の本体には現れません。満期まで保有する債券は原価法で計上できるため、注記にのみ開示されます。専門知識のない支援者・教会関係者には見えにくい数字です。
大学は「2047年の満期に額面通り回収できる」と説明しますが、「ドル円為替連動型」という商品の性格上、満期時の償還額は為替条件によって減額される可能性があります。その条件の詳細は一切公開されていません。
また、仕組債として保有している6億円は、2047年まで塩漬状態となり、万が一の時に取り崩す事はできません。
【ガバナンスの問題点】
学校法人の理事は「善管注意義務」を負います。高リスク商品への多額投資は法人資産の保全という観点から問題があり、専門家なしに6億円規模の取引を証券会社の提案のまま行ったことは、この義務との関係で深刻な問いを提起します。
さらに根本的な問題は、9,000万円の損失が2017年に発生したにもかかわらず、大学が公式説明文書を公表したのは2021年であり、約4年の空白があったという点です。
私ども「考える会」が公開質問状を通して、問題を指摘するまでは、支援者・教会への説明は一切なされておらず、隠されている状態でした。
◆第三の問題:問いへの不応答
私どもは2021年以来11回にわたり、以下の事項について質問状を送付してきました。
• 仕組債取引の意思決定プロセスと責任の所在
• 有価証券含み損の内訳と継続保有の根拠
• ハラスメント被害者への謝罪・対応
• 文科省への報告内容
• 資金管理運用委員会の実質的な活動状況
いずれの質問に対しても、実質的な回答は得られていません。
2023年5月の理事長回答書は、冒頭で「貴殿方の指定による期日限度内に逐一解答すべき義務を負ってはいない」と宣言しています。大学を支える教会・信徒・寄付者への言葉として、ふさわしいものでしょうか。
問いに答えないこと自体が、ガバナンス不全の証拠です。健全な組織は、正当な問いに対して誠実に応答します。それができないとすれば、応答することで生じる不都合があるか、あるいは応答する仕組みそのものが機能していないかのいずれかです。
【ガバナンス不全の構造的な原因】
なぜこのような状態が続くのか。私どもはその構造に三つの要因を見ています。
第一に、内部チェック機能の不全です。 理事・評議員が「仲間」で構成され、外部からの牽制が機能しにくい状況があります。2023年改正私立学校法によって評議員会の権限が強化されましたが、その実質はまだ問われていません。
第二に、「信仰の言語」による問題の覆い隠しです。 「赦し」「召命」という言葉は信仰の核心ですが、財務的・倫理的な問題を指摘する声を「裁き」として退けるために使われるとき、それはその言葉の本来の意味を損なうものです。
真の赦しは、問題を問題として認めることから始まります。
第三に、「潰れてはならない」という共同体の危機感が、批判的な目を曇らせていることです。 しかし逆説的に、問題を問わないことで財務悪化が止まらなければ、大学は本当に存続の危機に直面します。問うことは攻撃ではなく、愛する共同体の持続を願う行為です。
【私どもが求めること】
私どもは東京神学大学の使命を否定しません。
日本のプロテスタント伝道者養成という使命は重要であり、その使命が次の世代に引き継がれることを願っています。
だからこそ、以下を求めます。
・ハラスメント問題について、裁判で損害賠償が確定した被害者に対して、大学として誠実な謝罪と和解の取り組みを行ってください。学報において事実と経緯を開示し、再発防止への具体的な取り組みを示してください。
・仕組債・財務問題について、有価証券10億7,583万円の内訳を商品種別ごとに開示し、含み損1億2,683万円の評価と継続保有の判断根拠を示してください。「専門家なしに実行した」と認めた意思決定への責任を明確にしてください。
・情報開示について、支援者・教会が献金・支援の継続を判断するために必要な財務情報を、注記に埋もれた形ではなく、わかりやすい形で定期的に開示してください。
・問いへの応答について、11回の質問状に対して実質的な回答をしてください。応答することが、共同体への信頼回復の第一歩です。
おわりに
ガバナンスとは、制度や規程の問題である前に、組織が自らを誠実に問い直す意志があるかどうかの問題です。
東京神学大学は、伝道者を養成する神学校として、誠実さ・透明性・説明責任という価値を誰よりも体現すべき立場にあります。
その神学校が、ハラスメント・財務問題・情報開示のいずれにおいても、これらの価値から遠ざかっているように見えることは、深い悲しみを覚えます。
創立百年に向けて真の再出発を果たすためには、過去の問題に正面から向き合い、傷ついた人への謝罪と、支援者への誠実な説明から始めるほかありません。私どもはその日を願い、問いかけを続けます。
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